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霧島夜子の愛の風景

この作品について

夫の目の前で彼とキスをする——夫の願いを叶えた夜から始まる、夫公認NTRの官能小説です。最初はゴムが必須だった関係が、お互いの信頼が深まるなかで、少しずつ変わっていきます。肉体の描写だけでなく、感情の揺らぎを丁寧に書きました。登録不要、スマホからも全文お読みいただけます。18歳未満の方はご遠慮ください。

Novel — 全文無料
夫公認NTR / 完結短編

夫の目の前で、
彼とキスをした

霧島 夜子

「健二くんとキスしてるところを、見せてほしい」——夫の静かなお願いを、私は断らなかった。リビングのソファ、夫の視線、彼の唇。最初はゴム必須だった私たちが、夫の許しと約束のなかで、少しずつ信頼を積み重ねていく一年の記録。

読了時間
約6分
文字数
約3,300字
章数
5章
ジャンル
夫公認NTR

この作品は官能小説の部屋に収録されています。他のテーマ(婚外恋愛・NTR・倦怠期)の作品も登録不要で読めます。

目次
第一章

夫のお願い

夫がその話を切り出したのは、日曜日の夜、食器を洗い終えたあとだった。

「ひとつ、お願いがあるんだけど」

和也は台所の端で、ふきんをたたんでいた。目は合わせない。けれど、逃げている感じもしない。大事なことを言う前、この人は必ず一度ふきんをたたむ。結婚して十二年、その癖は変わらない。

「健二くんとキスしてるところを、見せてほしい」

息子はもう眠っていた。換気扇の音だけが、台所に残っていた。

「ここで?」

「うちで。ちゃんと、俺の目の前で」

夫の望みを知ったのは、結婚三年目の夜だった。妻が他の男に抱かれる姿を想像すると、胸が苦しくなる。苦しいのに、身体は熱くなる。そう打ち明けられたとき、私は笑えなかった。笑わずに、ただ聞いた。

あれから九年。夫公認の関係が始まって四年が過ぎていた。健二とは、付き合って三か月になる。

夫の前で、彼とキスをする。想像しただけで、喉の奥がかわいた。

「いやなら、断ってくれていい」

夫は、そう付け足した。いつもそうだ。お願いのあとに、必ず逃げ道を置く。

「いやじゃない」

自分でも驚くほど、すぐに声が出た。

「ただ、健二に聞いてみる。彼がいやなら、しない」

「うん。それでいい」

夫は小さく息を吐いた。ふきんをたたむ手が、まだ止まらなかった。

第二章

リビングのキス

健二は土曜日の夜七時に来た。息子は夫の実家に泊まりにいっていて、家には私と夫しかいなかった。

玄関で靴を脱ぐ彼の背中が、いつもより少しだけ硬い。

「お邪魔します」

「どうぞ。ビール、冷えてるよ」

夫の声は穏やかだった。三人でテーブルを囲んで、乾杯をした。話題は仕事のことや、先週見た映画のこと。誰も、今夜の本題には触れなかった。

ビールが二本空いたころ、夫がグラスを置いた。

「じゃあ、お願いしてもいいかな」

健二が私を見た。私はうなずいた。

ソファの前に立つと、膝がかすかに震えていた。夫はソファに深く座って、私たちを見上げている。その視線が、肌の上をゆっくり這うのがわかった。

「夜子さん」

彼が小さな声で呼ぶ。両手が、私の頬を包んだ。

最初のキスは、触れるだけだった。唇と唇が、ほんの少し重なる。それなのに、背中の産毛が逆立った。

「もう一回」と、夫が言った。

二度目は、深かった。彼の舌が唇の隙間に入ってきて、私の舌をさがす。ビールの苦みと、彼の体温。腰に回された腕に引き寄せられて、胸が彼の胸にぶつかった。

ソファのほうから、夫の呼吸が聞こえた。浅くて、少し乱れている。

見られている。夫に、見られている。

その事実が、舌の動きよりも深く私を濡らした。

唇が離れたとき、糸のような唾液がほどけて落ちた。私は肩で息をしていた。

「夜子」

夫が低い声で呼んだ。

「すごく、きれいだった」

目が、少し赤かった。ズボンの前が張っているのが、見えてしまった。夫は気づいて、恥ずかしそうに笑った。その笑い方が、結婚前と同じで、胸がぎゅっとなった。

「続き、してきて。俺は、ここにいるから」

「いいの?」

「いい。帰ってきたら、全部聞かせて」

第三章

ゴムの約束

寝室のドアは、少しだけ開けてあった。夫がそう望んだ。

健二はベッドの端に腰かけて、私の手を取った。

「夜子さん。ゴムは、約束どおりに」

最初に決めたのは夫だった。付き合いはじめる前、三人で話した夜に、夫が条件を三つ出した。ゴムを必ず使うこと。会った日は夫に報告すること。夜子が少しでもいやなら、その場で止めること。

健二は、その三つを一度も破ったことがない。

ブラウスのボタンを、彼の指が一つずつ外していく。下着の上から胸をつつまれて、思わず声がもれた。リビングに聞こえているかもしれない。そう思うと、喉の奥で声を噛んだ。

「声、聞かせてあげたら」

耳もとで、彼が言った。

「和也さん、きっと喜ぶよ」

その一言で、箍が外れた。

彼の唇が首筋から鎖骨へ降りて、胸の先を舌でころがす。もう片方の手がスカートの中に入って、下着のふちをなぞる。濡れているのが、自分でもわかった。

「夜子さん、すごい」

「言わないで……」

指がゆっくり入ってくる。奥の、感じるところを知っている動きだった。腰が勝手に浮いて、シーツをつかむ。

「入れていい?」

「うん。早く」

彼がベッドサイドの小さな箱を取って、袋を破いた。薄い膜の音が、静かな部屋でやけに大きく聞こえた。

彼が入ってきたとき、私は夫の名前を呼びそうになって、唇を噛んだ。

あたたかくて、ゆっくりで、深い。ゴムごしでも、彼の形ははっきりわかる。奥を押されるたびに、頭の中が白くなる。

リビングで、夫が聞いている。

そう思うだけで、いつもより早く、波がきた。

「もう、だめ……」

「いいよ。いって」

全身が震えて、脚が彼の腰に絡みついた。声は、もう隠せなかった。

そのあとのことは、あまり覚えていない。彼の汗が私の胸に落ちて、彼もしばらくして低く息を詰めた。

リビングに戻ると、夫はソファに座ったまま、冷めたお茶を握りしめていた。

「ただいま」

そう言った私を、夫は何も言わずに抱きしめた。手が、少し震えていた。

その夜、私は夫に抱かれた。健二の匂いが、まだ肌に残っているうちに。夫は、私の身体のあちこちを確かめるように触れて、何度も私の名前を呼んだ。

こんなに熱い夫は、いつぶりだろう。

第四章

ゴムを外した夜

ゴムは、それから半年のあいだ、一度も外れなかった。

会う回数が増えて、三人の距離も、少しずつ近くなっていた。健二は変わらず約束を守っていたし、夫も、帰ってきた私の話を、いつも静かに聞いてくれた。

ある夜、ベッドの中で、夫が天井を見たまま言った。

「ゴム、外してもいいんじゃないかな」

私は、夫のほうを向いた。

「夜子は、アプリで基礎体温をつけてるだろ。危険日さえ避ければ、ってことで」

「……いいの?」

「いやだったら、言ってない」

夫は少し笑って、私の髪に指を通した。

「俺は、夜子が決めたことを、一緒に背負いたい。ただ、ひとつだけ。危険日は、必ずゴム。それか、しない。そこだけは守ってほしい」

「うん。守る」

「それから、いやになったら、いつでも戻せるようにしよう。生でしないことは、いつでも選べる。それだけは、忘れないで」

胸の奥が熱くなった。許されているのではなく、守られているのだと思った。

翌週、健二にその話をすると、彼はしばらく黙っていた。

「……本当に、いいんですか」

「うん。和也と、ちゃんと話したから」

「じゃあ、アプリの記録、見せてもらってもいいですか。危険日、俺も一緒に覚えておきたい」

その言い方が、なんだかおかしくて、私は笑ってしまった。三人で、同じカレンダーを見ている。それが、いつのまにか普通になっていた。

第五章 / エピローグ

危険日以外は

最初の夜のことは、忘れられない。

危険日をきっちり外した金曜日。ホテルの部屋で、彼が小さな袋を手に取ろうとして、私を見た。

「夜子さん、本当に、いい?」

「うん。そのまま、来て」

彼がゆっくり入ってきた。ゴムのないその感触は、あまりにも生々しくて、私は思わず彼の肩に爪を立てた。熱い。やわらかい。直接伝わってくる脈の動きまで、わかる。

「だいじょうぶ?」

「だいじょうぶ……すごく、いい」

涙が出た。気持ちよかったからだけじゃない。三人で積み上げてきたものの重さが、一度に押し寄せてきた。

帰ってから、夫に全部話した。夫は目を閉じて聞いて、最後に「ありがとう」とだけ言った。それから私を、長く抱いた。

あれから、季節が一つ変わった。

いまでは、危険日以外は、生でするのが普通になった。ゴムの箱は寝室の引き出しの奥にあって、危険日のたびに、そっと取り出される。

今夜も、リビングのソファには夫がいる。

私は健二の膝の上で、彼のシャツのボタンを外している。ふたりの唇がふれると、ソファのほうから、夫の呼吸が聞こえた。

「夜子」

夫が呼ぶ。

「今日は、大丈夫な日だよな」

「うん。三日前に、記録したとおり」

「そうか」

夫は、静かに笑った。

信頼というのは、ゴムを外すことじゃない。外してもいい理由を、三人で積み重ねてきたことだと思う。

健二の手が、私の腰をゆっくり引き寄せる。

「夜子さん」

「うん。……来て」

寝室のドアは、今夜も少しだけ開いている。

夫の視線が、背中を撫でていく。その視線を感じながら、私は、愛されている、とはっきり思った。

Author's Note — 霧島夜子より

この物語は、フィクションです。ただ、「ゴムを外す」ことを、ただの欲望や勢いで書きたくありませんでした。外してもいい理由を、三人でどれだけ積み重ねられるか。決めごとを共有すること、いやになったらいつでも戻せること——それが、私にとっての信頼のかたちです。

霧島 夜子