夫が選んだ男
——夫公認の彼氏と過ごした三年間
夫がいる。愛している。そして、彼がいる——夫が選んだ男。夫が許した関係。三年間、私は二人の男性を同時に愛した。喜びも、罪悪感も、嫉妬も、感謝も。全部が本当で、全部が同時に存在した。その三年間の記録。
プロローグ
これは告白だ。
夫がいる。結婚して九年になる。愛している。この気持ちに嘘はない。
そして、彼がいる。夫が選んだ男。夫が許した関係。三年間、私は二人の男性を同時に愛した。
この話を誰かにしたことはない。友人にも、家族にも。「夫公認」という言葉は、聞こえはいいかもしれないが、実際にそれを生きることは、どんな言葉でも説明しきれない複雑さを孕んでいた。喜びも、罪悪感も、嫉妬も、感謝も——全部が本当で、全部が同時に存在した。
この本は、その三年間の記録だ。
官能的な場面も出てくる。でも私が書きたかったのは、そこではない。二人の男性に愛されながら、私が何を感じ、何を失い、何を得たか。それを、できる限り正直に書いた。
読み終えた後、「こういう生き方もあるのか」と思ってもらえたら、それだけで十分だ。
霧島夜子
出会いの夜
彼と初めて会ったのは、夫が予約したレストランだった。
和也——私の夫——は、事前に私にこう言っていた。「今夜、会ってほしい人がいる。俺が選んだ人だから、信頼している」。それだけだった。詳しい説明はなかった。でも私には、なんとなく察しがついていた。
オープンリレーションシップの話が出たのは、その半年前のことだ。夫から切り出した。「俺たちの間に愛情はある。でも、お互いが持っていない何かを、外で補ってもいいんじゃないか」。私はすぐには答えられなかった。一週間、考えた。考え続けた結果、「試してみたい」という気持ちが、「怖い」という気持ちを少しだけ上回った。
レストランは銀座の小さなフレンチだった。窓際のテーブルに、彼はすでに座っていた。
三十八歳。建築士。名前は、篠崎隆一。
写真では穏やかそうな人だと思っていたが、実物は写真より少し鋭い印象だった。でも、立ち上がって頭を下げたときの所作に、品があった。「霧島さんですね。篠崎です。今日はよろしくお願いします」。声が低くて、ゆっくりしていた。
夫の和也は、二人が向かい合うのを少し離れて見ていた。奇妙な光景だ、と私は思った。夫が、妻の「彼氏候補」と妻を引き合わせている。普通ではない。でも、和也の表情は穏やかだった。緊張も、嫉妬も見えなかった。ただ、慎重に、二人のことを見守っていた。
食事の間、私は何を話したか、よく覚えていない。ただ、篠崎が話すときに相手の目をちゃんと見ること、笑ったときに少し目が細くなること、そして私の話を最後まで遮らずに聞くこと、それが印象に残った。
帰り道、夫は私に聞いた。「どうだった?」
「悪くなかった」と私は答えた。
和也は「そうか」と言って、それ以上は何も聞かなかった。その夜、私たちは普通に眠った。特別なことは何もなかった。でも私は、布団の中でしばらく天井を見つめていた。篠崎の声の低さが、耳の奥に残っていた。
二回目に会ったのは、それから二週間後だ。今度は二人きりだった。
場所は、彼が指定した恵比寿のバーだった。カウンターで隣に座ると、彼の肩が私の肩にほんの少し触れた。それだけで、胸の奥に何かが灯った。夫に触れられるときとは違う感覚だった。夫の温もりは「知っている温もり」だ。でも篠崎の肩は、「未知」だった。
「緊張してますか」と彼が聞いた。
「少し」と私は正直に答えた。
「僕もです」と彼は言った。「こういう形の関係は初めてなので」
その正直さが、少し緊張をほぐした。私たちは二時間、飲んだ。彼は建築の仕事の話をした。私は以前勤めていたデザイン事務所の話をした。和也の話は、ほとんどしなかった。でも、会話の端々に、「あなたには夫がいて、僕はその関係を知った上でここにいる」という了解が、静かに流れていた。
別れ際、彼は「また会えますか」と聞いた。
私はしばらく間を置いてから、「はい」と答えた。
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第四章〜第十章「三年間の全記録」| エピローグ「あとがき」