その夜、私たちはいつもと同じ店のいつもと同じ席にいた。
カウンターの端。彼が頼むのはいつもハイボール、私はジントニック。それだけ知っていて、それ以上は知らないでいようとした関係が、もう八ヶ月になる。
でも、輪郭は少しずつにじむ。
八ヶ月の間、私たちは何百通ものLINEを交わし、深夜に電話で笑い合い、一度だけ映画館の暗闇の中で手を繋いだ。身体には触れていない。セカンドパートナーの関係は、そういう距離を守るものだと思っていた。
その夜、彼が少し早く来ていた。私が席に着くと、彼はすでにハイボールを半分空けていた。何かあったのだと、すぐわかった。
「妻と、話し合いをした」
その一言で、空気が変わった。私の胸の中で、何かが緊張する。
「別れるとか、そういう話じゃない。ただ、俺がどういう人間かを、ちゃんと話した」
私はジントニックを一口飲んで、彼の顔を見た。いつもより少し疲れている。でも、どこかすっきりしてもいる。
— — —
帰り際、駅の改札の前で、彼が立ち止まった。
「言っていいか」
その矛盾が、私がセカンドパートナーという関係に居続けた理由だったのかもしれない。曖昧なまま、でも確かに存在しているという感覚——それが心地よかったのに。
「好きだよ。言わずにいようと思ってたけど、今日は言いたかった」
改札の前で、ふたりとも動かなかった。
私には夫がいる。彼には妻がいる。「好き」という言葉がふたりの間に落ちた今も、それは変わらない。変わらないまま、何かが変わった夜だった。
セカンドパートナーへの告白は、こういうものなのかもしれない。結末のない告白。でも嘘のない、「好き」。