三 常念岳から蝶ヶ岳

吉川 正裕

前常念岳 ・常念岳
吐く息が白い、下界では最高気温を更新したとかしないとか
豊科の谷合、三股に車で着いたのは深夜十二時、駐車場は
すでに満車状態だ、適当な空き地を見つけ駐車し仮眠する。
5時起床、仰げば満天の初秋の星座が谷合に広がっている。
左に快いせせらぎの音を聞きながら、平坦な沢道を
しばらく進むと道が二つに分かれている。左が蝶ケ岳へと
進む道のようだ、ほとんどの登山者は左へと向かっている、
私が二日後に帰ってくる予定の道である。
右に前常念岳を目指して夜露に濡れた登山道にとりつく。
滑りやすく慎重に足を前へ運ぶ、日の出とともにヘリコ
プターの音が下から聞こえてきた、あとで分かったことだが
遭難者が出ているらしい。
樹林帯の急登は息が切れる、雲ひとつない秋晴れ、九時も
過ぎると少し汗ばんでくる、ゆっくりと登って行く。
からまつ林の樹林帯を抜け、ダケカンバが現れてくると
蝶ヶ岳へ続く稜線が左前方に見えてくる。ハイマツの生い
茂る森林限界を過ぎたところで、行く手に大きく展望が
開け目の前に前常念岳がフッと顔を出す。右前方には
前年日帰りで登った燕岳が見える。息をはずませ、汗を
流した3時間あまり山を登る者に与えられた感動のひと時
である。
一息入れ汗が引いたところで、前常念最大の難所である
岩場にとりつく。下を見れば目もくらむほどのすごい
絶壁、標識が以外と少なく、すでに何度かコースを離れ
ている。手がかりになる岩、そして足を置く適当な場所が
見つけにくい。突っ立った状態でタテそしてヨコに這う、
先ほどのヘリのことが脳裏をかすめる。本来ならば
クサリ・ハシゴがあってもおかしくない。
前方にはすでに何名かが岩場にとりついている。その中に
六十才は過ぎたであろうとおぼしき男性が同じく頂上を
目指している。かなりの登山経験者らしく靴、そして装備
からそれとなく分かる。頃合いを見はからって一息入れた
岩の上で話す。前常念は初めてだと言う、出てくる言葉は、
きつい・きついだけが返ってきた。
軽い砂場の斜面だがそれゆえ足を滑らせればそれこそ
止まることなく一瞬にして体が空を飛ぶことになる。
頂上での再開を約束して、慎重に登って行く。
時刻は十一時を廻ったが下山者がほとんど無い、
これまでの経験から行くと不思議であり珍しい、すれ違い
ざまのおはようの挨拶を交わしたのも数名しかいない。
正午前、前常念の三角点に立つ。梅干し入りのおにぎり
2個と「お~いお茶」で少し早い昼食を取る。
ペットボトルだが、山登りにはたいへん重宝する。
それにしても素晴らしい眺望である、左から御岳、乗鞍岳、
穂高連峰、後立山連峰そして燕岳から白馬、鹿島槍、
さらに目を右へ移せば雨飾、妙高、戸隠・・浅間山・
美ヶ原・・。ここはアルプス大展望台の上等地である。
正面には三角錐の常念岳が優しく立ちすくんでいる。
右に軽い下りの巻き道を選んで常念小屋を目指す、登山道は
所々沢が崩れてはいるものの危険なところはない。日が
当たらない所には霜柱が残っている。予定通り3時に
常念小屋に到着し、早々に宿泊の手続きを済ませたけれど
これが運命の始まり地獄になろうとは!!。
ううぅ、、、、、、。
8畳間に、なんと宿泊者○○人。畳1枚に○人が寝る。
ああぁーーーーー。